今日は、午前休みをいただきました。
台風の影響で外は大雨。
国立近代美術館で延長開催中の、イギリスの画家 ピーター・ドイクが、日本初開催の展覧会を開いていて、今週末終了ということもあり、行ってみました。
ちなみに、この近代美術館の建物も、美術館のロゴも、ミッドセンチュリー感出ていて、私はとても好きです。
通常、美術展は写真撮影NGですが、この展覧会は、写真撮影OKなばかりか、SNSやブログで拡散推奨だとかで、ドイクの新しい世界観がそのまま展覧会にも反映されていますね。(なお、ビデオ撮影はNG)
コンクリート・キャビンIIは、フランス北西部 ブリエ=アン=フォレにある、ル・コルビジェが建てたユニテ・ダビタシオンという集合住宅を描いています。ただ、そのまま描かず、暗い木々の奥に描かれているのですが、建物が木々の前にあるのか後ろにあるのか、錯覚を起こさせるような不思議な描き方をしています。絵の具の素材を工夫してこのような空間を作り上げているのだそうです。
[コンクリート・キャビンII]
彼の代表作「ガストホーフ・ツァ・ムンデンタールシュペレ」も展示されていました。
ドイツのダム湖をイメージした絵で、ダムの門前に二人の人物がいて、うち左手は作者自身を表しています。
場所の特定をしない不思議な雰囲気の絵。
画面下部は、妙にこってりと描かれていて、大きく回り込む回廊と、ダム湖の奥にもさらに奥がある描き方で、非常にダイナミックな遠近感を出しています。
[ガストホーフ・ツァ・ムンデンタールシュペレ]
彼は、1990年代の最初作は、カナダの風景を多く描きました。
湖とカヌーなどのボート、絵の構成を三つに分けて、描く様は彼の特徴的な世界です。
[オーリンMK IV Part2]
2000年代から、後に、トリニダード・トバゴの絵を多く描くようになります。
黒人が多いこの国は、首都のポート・オブ・スペインの風景を中心に、黒人の抑圧を解放するようなそんな絵を多く描いています。
明るい色調でも、どこか暗さがあるのが、彼の絵らしいところ。
下の絵は、ポート・オブ・スペインにあるラペイルーズ墓地の壁沿いを、パラソルをさす男が歩いているのですが、彼の表情を読み取ることはできません。
小津安二郎の映画「東京物語」にあるような、極めた「静けさ」を表現したものとされています。
[ラペイルーズの壁]
このピンポンという絵は、黒人男性が卓球に興じる絵ですが、バックのビールケースは極限まで抽象化され、卓球台と並行に、あえて直線的に描かれています。この抽象的な絵は、壁感が半端なく、しかも、この卓球の男の相手は描かれていません。
現実と仮想が織り交ざる不思議な絵です。
[ピンポン]
ポート・オブ・スペインの雨に描かれているのは、イギリス植民地時代に作られた監獄だそうです。
建物の緑の扉には、収監されている人がいて、街には悠々とライオンが闊歩しています。
ライオンには、ユダの獅子を象徴しているとされています。
ユダの獅子はアフリカを出自に持つ人々の地位向上を目指すラスタファリ運動の象徴として運動の発祥地であるジャマイカなどカリブ海諸国で有名なんだそうです。
監獄を通して、抑圧された歴史を持つ島国のイメージを描き切っている絵です。
[ポート・オブ・スペインの雨]
[ペリカン(スタッグ)]
ドイクは同じ構図の絵を、別のイメージで描くこともしばしば行ってきました。
左の絵は、健康的な男が青い空、海の中で、自信たっぷりでカリプソを歌っています。
あえて、足は描いていないものの、直線的な監視台の効果もあり、しっかりと立っているイメージを確立しています。
一方、右の絵は、空がどんよりしていて、男はやや左に傾き、監視台もないため、男の足もおそらく水の中で、不安定なイメージです。
まさに対象的な絵を描くドイクならではの作品だと思います。
[左:赤い男(カリプソを歌う) 右:水浴者(カリプソを歌う)]
ドイクは、映画のポスターも多く描きました。
単なる宣伝でなく、どこか見る者を無言で引き付ける迫力があります。
[座頭市(北野武監督)]
台風で大雨の中、いい芸術鑑賞ができました。